「巌窟ホテル高荘館」の特徴は、何といっても岩を彫り抜いて作られたところにある。全てが彫り抜かれ、刻み込まれていて、後から付け加えられたものはない。言い換えれば全てが表面で構成されている訳で、部屋や家具、道具の機能に合わせた素材の選択がない。
建築が「用」をもって他の芸術と異なる特徴とするならば、移動できない実験台や花瓶、
材質的に使用に耐えぬであろう棚や研究台、天井を支えているわけではない柱型はどのように説明できるだろうか。この建築の謎を解くカギは、このあたりにあるような気がする。
もし本当に峯吉が化学(科学)の研究や実験をすることに主眼を置いていたなら、もっと
機能にふさわしい空間を合理的な方法で作ることができたと思う。
特に研究台や棚などは周辺にある豊富な木材を素材とするなら、はるかに容易に必要なものを手に入れることができた。峯吉の資質から考えても、岩を掘って作ること以外の選択肢があったことは十分想像できる。
では何故、わざわざ岩を彫り、岩に刻むという手間のかかる方法をとったのだろう。
(畳一枚の面積を30B掘り進めるのに1日費やしたと言われている)